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ピロリ菌とは
ピロリ菌は、胃の粘膜に生息しているらせん形をした悪い菌で、主に胃や十二指腸などの病気の原因になります。
子どもの頃に感染し、一度感染すると多くの場合、除菌しない限り胃の中に棲みつづけます。ピロリ菌に感染すると、炎症が起こりますが、この時点では、症状のない人がほとんどです。
大人になってから感染すると激しい胃の症状をみることがあります。
さらにピロリ菌の感染が続くと感染範囲が「胃の出口」の方から「胃の入口」の方に広がって、慢性胃炎(ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎)がすすみます。この慢性胃炎が、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、萎縮性胃炎、胃がん、さらには全身的な病気などを引き起こすおそれがあることが明らかになってきました。
胃の中には、食べ物の消化を助け、食べ物の腐敗を防ぐために、胃液が分泌されています。胃液には、金属でも溶かしてしまう強い酸(塩酸)が含まれているため、胃の中は強い酸性(pH1~2)で、一般的な菌は生息できません。
ピロリ菌が活動するのに適したpHは6~7で、4以下では、ピロリ菌は生きられません。それなのに、なぜピロリ菌は胃の中で生きていけるのでしょうか?
秘密はピロリ菌がだしている「ウレアーゼ」という酵素にあります。この酵素は胃の中の尿素を分解してアンモニアを作りだします。アンモニアはアルカリ性なので、ピロリ菌のまわりが中和され、胃の中でも生き延びることができるのです。
どのようにしてピロリ菌に感染したのでしょうか?
ピロリ菌はどのような経路で、いつ人の胃に入り込むのでしょうか。
実は、どのような感染経路であるかはまだはっきりわかっていません。
ただ、口から入れば感染するといわれています。大部分は飲み水や食べ物を通じて、人の口から体内に入ると考えられています。それでは、生水を飲んだり、キスでピロリ菌に感染してしまうのでしょうか?
上下水道の整備など生活環境が整備された現代日本では、生水を飲んでピロリ菌に感染することはありません。また、夫婦間や恋人間でのキス、またコップの回し飲みなどの日常生活ではピロリ菌は感染しないと考えられています。
ピロリ菌は、ほとんどが5歳以下の幼児期に感染すると言われています。幼児期の胃の中は酸性が弱く、ピロリ菌が生きのびやすいためです。そのため最近では母から子へなどの家庭内感染が疑われていますので、ピロリ菌に感染している大人から小さい子どもへの食べ物の口移しなどには注意が必要です。
感染率は年代ごとに異なっています。
わが国では、上下水道が十分整備されていなかった戦後の時代に生まれ育った団塊の世代以前の人のピロリ感染率は約80%と高いのですが、衛生状態のよい環境で育った若い世代の感染率は年々低くなり、10代、20代では欧米とほとんどかわらなくなってきました。
また、ピロリ菌感染を予防する方法は、よくわかっていません。親から子へのたべものの口移しには注意が必要でしょう。上下水道が整備され衛生環境が整った現代ではピロリ菌の感染率は著しく低下しており、予防についてあまり神経質にならなくてもよいでしょう。
ピロリ菌が原因で発症するといわれている病気は、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がん、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、機能性胃腸症、胃ポリープ、じんましんなどがあります。
胃がんとピロリ菌
胃がんとピロリ菌は密接に関係しているといわれています。
1994年にWHO(世界保健機構)は、ピロリ菌は「発がん因子」と認定しました。これは、タバコやアスベストと同じ分類に入ります。
ピロリ菌の感染が長期間にわたって持続すると、胃の粘膜がうすくやせてしまう「萎縮」が進行し、一部は腸上皮化生となり、胃がんを引き起こしやすい状態をつくりだします。
また、胃潰瘍、十二指腸潰瘍や胃炎などの患者様を対象とした調査では、10年間で胃がんになった人の割合は、ピロリ菌に感染していない人では0%(280人中0人)、ピロリ菌に感染している人では2.9%(1246人中36人)であったとの報告がわが国から行われています。
胃がんになったらピロリ菌を除菌した方がよいでしょうか?
ピロリ菌を除菌すると、新しい胃がんが発生する確率を減らすことができる可能性があります。早期胃がんの治療後にピロリ菌を除菌した患者様は、除菌をしなかった患者様と比べ、3年以内に新しい胃がんが発生した人が約3分の1だったと報告されています。
胃がんとピロリ菌と食事
一般にがんを予防するためには食事、環境および生活習慣に留意することが必要とされています。
それをわかりやすく解説したものとして公益財団法人がん研究振興財団より「がんを防ぐための新12カ条」が2011年に提案されました。この新12カ条で胃がんについては、9「ウイルスや細菌の感染予防と治療」として胃がんの発生の重要な因子の一つと考えられているピロリ菌についての記載が加わっており、ピロリ菌に感染していれば除菌療法を含めて、主治医へ相談することがすすめられています。
胃がんと食事については特に、5「塩辛い食品は控えめに」6「野菜や果物は不足にならないように」が参考になると思われます。
がんを防ぐための新12カ条(公益財団法人がん研究振興財団 監修)
- たばこは吸わない ―目標― たばこを吸っている人は禁煙をしましょう。
- 他人のたばこの煙を避ける ―目標― 吸わない人も他人のたばこの煙をできるだけ避けましょう。
- お酒はほどほどに ―目標― 飲む場合は1日当たりアルコール量に換算して23g程度まで(日本酒なら1合、ビールなら大瓶1本、焼酎や泡盛なら1合の2/3、ウイスキーやブランデーならダブル1杯、ワインならボトル1/3程度)、飲まない人、飲めない人は無理に飲まないようにしましょう。
- バランスのとれた食生活を ―目標― 食塩は1日当たり男性7.5g、女性6.5g未満、特に、高塩分食品(例えば塩辛、練りうになど)は週に1回以内に控えましょう。野菜・果物を1日400g(例えば野菜を小鉢で5皿、果物1皿くらい)はとりましょう。飲食物を熱い状態でとらないようにしましょう。
- 塩辛い食品は控えめに ―目標― 食塩は1日当たり男性7.5g、女性6.5g未満、特に、高塩分食品(例えば塩辛、練りうになど)は週に1回以内に控えましょう。
- 野菜や果物は不足にならないように ―目標― 野菜・果物を1日400g(例えば野菜を小鉢で5皿、果物1皿くらい)はとりましょう。
- 適度に運動 ―目標― 例えば、ほとんど座って仕事をしている人なら、ほぼ毎日合計60分程度の歩行などの適度な身体活動に加えて、週に1回程度は活発な運動(60分程度の早歩きや30分程度のランニングなど)を加えましょう。
- 適切な体重維持 ―目標― 中高年期男性のBMI(体重kg/身長m2)で21~27、中高年期女性では21~25の範囲内になるように体重をコントロールしましょう。
- ウイルスや細菌の感染予防と治療 ―目標― ピロリ菌や肝炎ウイルスの検査を受けましょう。
- 定期的ながん検診を ―目標― 1年または2年に1回定期的に検診を受けましょう。検診は早期発見に有効で、前がん状態も発見できます。
- 身体の異常に気がついたら、すぐに受診を ―目標― やせる、顔色が悪い、貧血がある、下血やおりものがある、せきが続く、食欲がない、などの症状に気がついたら、医療機関を受診しましょう。
- 正しいがん情報でがんを知ることから ―目標― 科学的根拠に基づくがん情報を得て、あなたに合ったがんの予防法を身につけましょう。
塩辛い食品は控えめに
久山町研究 注)では、ピロリ菌感染者で、萎縮性胃炎を有している人について検討したところ、食塩を多く摂取している人ほど胃がんの発生が多かったと報告されています。
まずは、ピロリ菌を除菌し、食事は野菜や果物をとり、塩分を控えることで、生活習慣病や胃がんの予防対策を行いましょう。
注)1961年から福岡市に隣接した糟屋郡久山町(人口約9,000人)の住民を対象に行っている疫学調査
野菜や果物は豊富に
野菜や果物には、カロチノイドやビタミンCなどの成分が豊富に含まれています。WHO(世界保健機構)は「野菜・果物を、胃がんのリスク軽減にいい影響を及ぼすもの」としていますので、野菜・果物は少なくとも毎日1回は食べたほうがよいと考えればよいと思われます。
胃液中のビタミンCは、ピロリ菌の感染者では減少していますが、除菌に成功すると通常の値に復帰することが報告されています。つまり、ピロリ菌による慢性胃炎があると、胃がん発生を予防する働きのあるビタミンCが胃液中に分泌されにくくなり、胃がん発生の可能性が増すことになります。野菜・果物を多くとっても、ピロリ菌に感染していては、十分な胃がん予防が発揮できないともいえます。
ピロリ菌の除菌
ピロリ菌を薬で退治することを除菌といいます。ピロリ菌の除菌により、関連する病気が改善したり予防できる場合があります。日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、ピロリ菌に関連する疾患の治療および予防のため、ピロリ菌感染者のすべてに除菌療法を受けることが強くすすめられています。
ほとんどのピロリ菌感染者は、症状もなく、健康に暮らしています。除菌療法の対象となる人は、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎の患者様、胃潰瘍または十二指腸潰瘍の患者様、胃MALTリンパ腫の患者様、特発性血小板減少性紫斑病の患者様、早期胃がんに対する内視鏡的治療後胃の患者様で、ピロリ菌に感染している人です。もしも、あなたが上記に該当しても、除菌療法が必要かどうかは主治医とよく相談してください。
ピロリ菌除菌療法の保険治療対象となる人は、次の1~5の病気の患者様です。
- 内視鏡検査または造影検査で胃潰瘍または十二指腸潰瘍と診断された患者様
- 胃MALTリンパ腫の患者様
- 特発性血小板減少性紫斑病の患者様
- 早期胃がんに対する内視鏡的治療後(胃)の患者様
- 内視鏡検査でヘリコバクター・ピロリ感染胃炎と診断された患者様
除菌療法の成功率と成功のコツ
ピロリ菌の除菌療法は、2種類の「抗菌薬」と「胃酸の分泌を抑える薬」合計3剤を服用します。1日2回、7日間服用する治療法です。
ピロリ菌を除菌するために、除菌療法を成功させるためのコツは、指示されたお薬はしっかり服用することです。自分の判断でお薬をのむのを中止したり、お薬をのみ忘れたりすると、除菌がうまくいかず、治療薬に耐性をもったピロリ菌があらわれて、薬が効かなくなることがあります。また、除菌療法の間に気になる症状を感じた場合は、主治医または薬剤師に相談してください。
除菌療法後の判定
除菌療法を含むすべての治療が終了した後、4~8週間以上経過してからのピロリ菌を除菌できたかどうかの検査は受けて、結果を確認しましょう。
逆流性食道炎(胃食道逆流症・GERD)
食べ物や胃酸(PHは1~2の強塩酸、1日2リットル分泌)が逆流しないように閉まっているはずの噴門が何らかの原因で開いたために食道に逆流して胸焼けなどの症状を起こす逆流性食道炎の患者が食生活の欧米化で日本でも増えていると言われています。
食道の炎症が慢性化すれば食道がんの原因になるとも言われています。最近の傾向として、内視鏡で食道を調べても炎症も傷も見つからないのに、胸焼けを感じる「非びらん性の胃食道逆流症」が増えています。
日本人の食道がんの90%は扁平上皮がんですが、胃酸の逆流の結果起きるがんは腺がんで、今後増加すると警告されていますので、逆流性食道炎と言われたら、胸焼けなどの自覚症状の強弱に関係なく、きっちりと服薬し、普段の生活態度(暴飲暴食、早食い、食後すぐに横になるは三大悪)にも注意すると共に、定期的な胃内視鏡検査を受けることが重要だと言われます。
症状
ちりちりした胸焼けがポピュラーですが、食物がしみる感じや痛い感じ、固いものを食べたときに食道上部がつかえる感じ、胃部不快感、激しい胸の痛みもでることがあります。症状がひどい場合は焼け火箸をあてたような痛みと表現する人もいらっしゃいます。
何となく食欲がないとか甘いものが食べられなくなったり、喉・口の中へ逆流する感じがしたり、酸っぱいものが上がってくる、口がすっぱくなる感じ、口の中に苦い水が上がってくるなどの症状が出ることもあります。
喉の違和感(せき、ぜんそく、咽頭圧迫感、喉頭異物感、声がれ、ものを飲み込むときにひっかかるような感じがするなど)が出る人もいる等多彩な不快症状が出現します。
ひどくなると食道が狭くなって食物が通りにくくなることもあります。かがんだ時や食べすぎた後(食後2時間以内)あるいは就寝後や起床時に不快感が強い人が多いようです。これは胃酸の分泌が夜中2時頃に多くなるためです。また、胃液は起きている時よりも就寝時など横になっている姿勢のほうが逆流しやすいために、就寝中に食道に炎症が起きるので朝起きた時から胸焼けを感じることが多くなります。
治療
- 日常生活の注意
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まずは生活態度を改めることが基本です。これでかなり症状は軽快します。暴飲暴食、早食い、食後すぐに横になるは三大悪です。
- 胸焼けを起こしやすい食品をできるだけ減らす必要があります。:天ぷら等の揚げ物や脂肪食、オレンジなどのかんきつ類を減らす。食塩の取りすぎは逆流を起こしやすいので、食卓塩をかけすぎに注意し、塩気の多い魚などは控えることが必要です。その他、カレーライス、ハンバーグ、シューマイ、マグロのトロ、揚げせんべい、さつまいも、オレンジジュース、コーラ、チョコレート、ココア、甘味和菓子、ショートケーキ、ペパーミント等
- 酒・たばこや刺激物(コーヒー、香辛料、カフェイン)や濃い緑茶、炭酸飲料(コーラ等)ビールに枝豆は胃酸の分泌が多くなるので控えるのがよいでしょう。
- 寝るときに頭部が10~20cm程度高くなるようにクッションやマットを折り曲げて布団の下に敷く等の工夫をすると良いでしょう。また横向きに寝る場合は、左を下にして寝るとよい。(一般的には右を下にして寝ると逆流しやすくなるが、これに対して、右を下にして寝る方が逆流しにくいと言う患者様もおられます。)
- 肥満解消に努めます。
- 腹圧を上げないようにする。(重いものを持たない、前かがみを避ける、ベルトを強く締めない、排便時に力まない)
- 食べ過ぎないことです。
- ゆっくり食べるようにし、早食いはしないように務める。
- 運動や食物繊維の多い食事は取ったほうがいいでしょう。
- 食べた後最低30分はごろんと横にならない。できれば2時間は起きておく。どうしても横になりたいときは頭を上げた姿勢を取る。
- 熱い物は避ける。
- 薬服用時は、水を一緒にたくさん飲むようにする。
- 牛乳、卵、大根、山芋、キャベツ、豆腐は逆流性食道炎に良いので取りたい。
- 内服治療
- 胃酸の分泌を強力に抑える目的で、プロトンポンプ阻害薬やH2ブロッカーが使われます。症状そのものは1~2週間で軽快しますが、一時的には治ったようにみえても再発しやすいので、薬を長期に飲むこともあります。
食道や胃の蠕動運動が何らかの原因で悪い場合は、食物が食道⇒胃⇒小腸に進まないので、逆流性食道炎を起こしやすくなります。消化管運動改善薬を投与し症状の改善を見ることもあります。
薬で治らない場合は手術も考慮されます。腹腔鏡手術や内視鏡による手術も必要になることもあります。
非びらん性胃食道逆流症
内視鏡検査をしても、食道にびらんや傷が見つからないのに、週に2日以上、胸焼けなどの症状があって日常生活に支障がある場合、非びらん性胃食道逆流症と言います。非びらん性胃食道逆流症の人の場合は胃酸の逆流があるのは60~70%で、残りの人は胃酸の逆流はなくても、食べた物の刺激等で胸焼けを起こします。治療には逆流性食道炎と同じ胃酸の分泌を抑える薬が用いられ、保険が適用されます。
急性胃腸炎とは?
急性胃腸炎とは、経過が急で、嘔吐、下痢、発熱、などの消化器症状を起こす症候群の総称です。
大部分はウイルスですが、時に細菌の感染による胃腸炎が見られます。例えば食中毒では、古い惣菜や、加熱不十分な肉や海産物などの摂取で起きることがあります。食べ物だけでなく、海外などでは不衛生な水や、ペットなどからもうつる事も有ります。集団的に食中毒などが起こった場合には、使われた食材や衛生環境なども同時に調べ上げる必要があります。
急性胃腸炎の治療~症状を早くよくするためには?
症状の強いときは絶食とし、症状が改善してきたなら、消化が良く、刺激の少ない食事を取りましょう。嘔吐下痢が激しい初期はなかなか難しいですが、その時期が少し落ち着いたなら、様子を見ながらなるべく早く水分補給を開始しましょう。脱水になってしまうと、体のあちこちに不具合が起こります。ただでさえ、嘔吐下痢によって多量の水分が失われているのですから、相当こまめな水分補給が必要となります。絶食時にも水分補給を行うということが必要です。ぬるま湯、または茶を与えるとよいでしょう。牛乳、果物ジュース、炭酸飲料などは腸を刺激し、下痢を悪化させる可能性があるので控えないといけません。
ここで注意したいのは、むやみに吐き気止めや下痢止めを飲まないことです。吐いたり下痢をしたりといわば自然の流れなのです。薬は、どうしてもつらい場合や、長く続く場合、医師に相談して薬の作用が不利益よりも上回ると判断された場合のみ、処方されます。また、急性胃腸炎を引き起こした場合、腸粘膜の炎症のため、腸の運動が活発になり、下痢や腹痛を引きおこすので、腸を安静にさせる必要があります。
急性胃腸炎の原因微生物
1 ノロウイルス腸炎
ノロウイルスは冬季を中心に多発する感染性胃腸炎では特に多く、冬季に毎年流行します。多くの場合ウイルスの検査をしないため、総数ははっきりしませんが数百万人の感染があると推定されます。
嘔気・嘔吐、下痢が主症状ですが、腹痛、頭痛、発熱、悪寒、筋痛、咽頭痛、などもみられます。特別な治療は必要とせず自然によくなることが多いのですが、乳幼児や高齢者および体力の弱っている人では、下痢による脱水や嘔吐物による窒息に注意する必要があります。
潜伏期間は1~2日で、ウイルスは症状が消失した後も約1週間(長い時には約1カ月)患者の便中に排泄されるため、二次感染に注意が必要です。
飲食物を介して感染する場合と患者との接触によりヒトーヒト感染する場合があります。カキなどの二枚貝を生や過熱不十分な状態で食べることが、飲食物を介した感染の主な原因です。ヒトーヒト感染では、調理従事者を介した感染や学校・家庭などでの接触感染が多いようです。
感染者のふん便には、1gあたり数億個のウイルスが含まれます。また、ノロウイルスは感染力が強く、10~100個の極微量のウイルスを摂取することで感染が成立します。ウイルスを不活化するには85℃・1分間以上の加熱ならびに次亜塩素酸ナトリウムが有効です。汚染防止策として手洗いの励行とウイルスを含む汚染物の処理が重要で、汚染物(嘔吐物、便)の処理には洗剤ではなく次亜塩素酸ナトリウムを用いることが重要です。
2 カンピロバクター腸炎
カンピロバクターは夏季を中心に多発する感染性胃腸炎です。食中毒統計では毎年約2,000~3,000人発生しており、細菌性腸炎のなかで多く、実際には年間150万人程度の患者がいると推定されています。
下痢、腹痛、発熱が主な症状であるが、嘔気、頭痛などもみられ、かぜやインフルエンザと間違われることもあります。発熱は一過性で、1~2日で解熱することが多いようです。血便も比較的多くみられますが、この場合潰瘍性大腸炎などの非感染性腸炎との鑑別が必要です。
特別な治療は必要なく2~3日で軽快することが多いのですが、乳幼児、高齢者および体力の弱っている場合では抗菌薬投与が必要なこともあります。
潜伏期は2~10日と比較的長く、患者自身が食中毒と気づかないことが多いようです。
感染源は鶏肉とその加工品、生レバーなどが多いのですが、牛や豚でもみられます。食肉の過熱不足や調理過程で、まな板や手指を介しての二次感染もみられます。感染防止には鶏肉を生で食べないことが重要です。
3 腸管出血性大腸菌腸炎(O157腸炎)
ベロ毒素を出して、出血性大腸炎や溶血性尿毒症症候群(HUS)を起こす大腸菌を腸管出血性大腸菌と呼びます。O157は、この腸管出血性大腸菌の代表的な細菌ですがO26、O121、O111などもみられます。ベロ毒素は強力で、特に腎臓、脳、血管などに障害を起こします。腸管出血性大腸菌は牛、豚などの大腸に生息していて、糞便や糞便で汚染された水、食物を介して、ヒトの口に入り感染を起こします。感染力が強く、感染したヒトからヒトへも感染します。
腸管出血性大腸菌は、わずか数個~数十個という少量の菌が口に入っただけで発症します。そのため非常に感染力が強いと言えるでしょう。ちなみに他の食中毒菌の場合、100万~1000万単位の病原菌が口に入ると発症するようです。
感染後4~8日で激しい腹痛、水様性下痢で発症し、翌日には血便を起こすのが典型的症状です。
典型例では便成分を認めない血性下痢となります。
年齢別の発症は0~4歳が多く、次いで5~9歳が多いようです。同じ物を食べても免疫能の弱い乳幼児のみが発症することが多いと考えられます。
予防のためには、焼き肉を食べる場合にはしっかり加熱(中心温度75℃以上で1分間以上)し、焼く箸と食べる箸を使い分けること必要です。手指の手洗いも重要です。
4 サルモネラ腸炎
1990年代後半までは腸炎ビブリオとともに猛威をふるっていましたが、国の種々の対策が功を奏し2000年代に入ると減少しました。それでも細菌性腸炎の食中毒の中ではカンピロバクター腸炎に次いで多いと言われています。
下痢、腹痛、発熱、嘔気が主な症状であり、血便をきたすことがあります。
菌が腸粘膜深くまで侵入するため、細菌性腸炎の中では重症であり、小児や高齢者では合併症(菌血症、腎不全、髄膜炎、骨髄炎など)のために死亡することがあります。
特別な治療は必要ないが、小児や高齢者、免疫不全のある患者、菌血症などの合併症を起こした患者、人工臓器を入れている患者、などでは抗菌薬の投与が必要です。
潜伏期は8~48時間と短く、患者自身が食中毒と気づくことが多いようです。
感染源は鶏卵と卵調理品が多いのですが、牛肉や豚肉、ペット(犬、カメ)からの感染もみられます。